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注意:好きな時に好きな本を読むのがモットー。書評ではなく覚書です。ほんの一部ですがネタバレがあると思われますので読む人は注意してください。敬称略です。

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2008/6/28 大東京四谷怪談 高木彬光 角川文庫 Amazon.co.jp
このタイトルを本屋で見かけたら手にとって見ずにはいられまい。事件の始まりは「現代版四谷怪談」を書いている脚本家にかかってくるお岩を名乗る女からの脅迫電話…。真相は幽霊の呪いか人間の狂気か。解決編のほかにもう一つの真相が付いた破格探偵小説。東海道四谷怪談の舞台の要約や成り立ち背景なんかもあって、情報としてもかなり充実している。この角川文庫のラインナップはなかなか面白い。他に「およね平吉」(半村良)とか「なめくじ長屋」(都筑道夫)とか。
2008/6/22 スカイ・クロラ 森博嗣 中公文庫 Amazon.co.jp
とりあえず映画の前に読んでみた。もやもやした文章をもやもやした時に読んだので、もやもやした印象。深読みはしないことにする。次作を読むかどうかはわからない。
2008/6/17 髑髏城の七人 中島かずき 講談社文庫 Amazon.co.jp
劇団☆新感線の代表作。舞台の小説化だが、単体でもかなり面白い歴史小説になっている。時代は戦国時代、信長亡き後、関東に聳える髑髏城の主「天魔王」に対抗すべく7人の無頼漢が無界の里に集まった!いやあ、兎に角登場人物が全員かっこいい──遊女も傾奇者も刀匠も百姓も裏切り者も…。舞台を観たい!
2008/6/15 ナイトウォッチ セルゲイ・ルキヤネンコ バジリコ Amazon.co.jp
この作品についてはロシアのヴァンパイヤものと聞いて期待していたのだった。最初に映画を観た時に感じたのは、かなり細かい設定がありそうだということ。本を読んでようやく「ははあ」という感じ。
光と闇の戦いという世界観については、グノーシス的なもので、最初はありきたりだと思っていたのだが、どうやら単純な話ではないことに気付く。光と闇は協定によって表だって戦うことができない。色々とルールがある。その分、ルールをかいくぐって相手を出し抜くための騙しの手口が複雑になってくる。主人公は闇の陣営を見守るナイトパトロール隊員なのだが、その作戦の詳細が上層部から降りてこないことにいらついている。ここらへん非常に官僚っぽくて、魔術師や異人たちの世界もなんだか大変そうである。その中で主人公が光とはなんぞや悪とはなんぞや的なことにぐだぐだと悩み続け、いったい何をしたいのかも分からないまますべてのエピソードが収束していくという展開。面白いんだけど疲れた。そして三部作らしいのでまだまだ続く…。
2008/6/13 多重人格探偵サイコ (12) 田島昭宇 x 大塚英志 角川コミックス・エース Amazon.co.jp
内容が…思い出せない。かといって今は読み返す気にもなれない。最終章って言ってるし、最後まで読むとは思うけどね。広げられた風呂敷がたたまれることに対してはあまり期待していない。今はもう2008年。いろいろな意味で時代を感じる。
2008/6/11 猫文学大全 柳瀬尚紀訳・編 河出書房新社 Amazon.co.jp
猫好きの文学好きにはたまらん一冊。ピカソやルソーなどが描いた猫の絵が挟まれているのも嬉しいところ。ギャリコはもちろん、トウェインもハックスリーも、あのサルトルだって、みんな猫が好き。やっぱり猫が好きなのさね。
2008/6/8 バベルの図書館 (12) ナペルス枢機卿 グスタフ・マイリンク 国書刊行会 Amazon.co.jp
何だろう、この奇妙な文章は。暗いとか不思議とか怖いとかではなく、人生の剰余というか、特殊な環境や時間に生きていて壊れるか狂ってしまった人間達の話とでも言えばいいのだろうか。それでもそれぞれの短編でちゃんとしたオチやトリック的なものがあったりするのが面白い。中でも「月の四兄妹」という話が印象に残った。終末論的、機械の大軍による人類滅亡のヴィジョン。庵野秀明は某アニメを構想する時にこの短編を読んだりしていないだろうか。
2008/6/2 バベルの図書館 (6) アーサー・サヴィル卿の犯罪 オスカー・ワイルド 国書刊行会 Amazon.co.jp
「アーサー・サヴィル卿の犯罪」「カンタヴィルの幽霊」「幸せの王子」「ナイチンゲールと薔薇」の4編。すべてワイルドの皮肉さが溢れていて面白い。カンタヴィル〜などは落語的な爆笑話でもある。サヴィル卿の犯罪動機というのも、これだけ探偵小説等で出尽くした後でもそのばかばかしさ(ある意味純粋さ)において新鮮。
2008/6/2 アメリカ フランツ・カフカ 角川文庫 Amazon.co.jp
孤独三部作と言われるように、たしかに孤独な人生の冒険譚なのだろうが、不条理な中にも一瞬希望すら見える気がする物語。カフカにしてはすごく読みやすい。残念ながら未完で、最後の章に至る部分が抜け落ちていたりする。しかも奇妙なファンタジーの序章みたいな終わり方になっている(たとえばこの後ホラーや幻想小説に転んでもおかしくないような)。印象的だったのが、カール少年が捕らわれてしまった坂の上の家のこと。読んでいる間ずっと、アメリカというよりもヨーロッパのごちゃごちゃした町並みが頭の中にずっとあった。悪党のドラマルシュなんかは、映画「ファム・ファタール」の時のアントニオ・バンデラスのような濃いイメージに脳内変換されていたという…。
2008/6/1 マニアックス 山口雅也 講談社 Amazon.co.jp
マニアックなことに関する短編集なのかと思ったらそこまでのものではなかった。一応蒐集家とか映画マニアとかは出てくるが。本格的に怖い話ではなくて、ちょっと怖かったり気持ち悪かったりする話やコメディタッチの軽いホラーが詰まっている。1つ1つは面白くて、たとえば『人形の館の館』のメタな視点など面白いテーマは含まれているのだが、通して読んだ後にほとんど何も残っていないような印象。
2008/5/30 墓をほる男・手袋の怪(水木しげる怪奇貸本名作選) 水木しげる ホーム社 Amazon.co.jp
水木しげる貸本時代の怪奇短編がこうやって読めるのは嬉しい限り。アシスタントとかいなかっただろうに、この絵のレベルは凄い。凄いといえば忍法ものの貸本でもちゃんと水木色が出ているのが凄い。他にも短編『髪』などには水木さんのユーモアが溢れている。淡々として怖いのにコミカル。主人公の名前を杉浦くんと書いておきながら、最後に「これは遠い遠いフランスでの話」とか言うか(笑)。
2008/5/28 昭和ミステリ秘宝 加田伶太郎全集 福永武彦 扶桑社文庫 Amazon.co.jp
福永武彦が加田名義で書いた短編探偵小説(+未完SF)を一冊にまとめた本。正直、都筑道夫が後書きで書いているところのパズラーとかモダン・デテクティヴ・ストーリイとかいうものは私にとって辛いジャンルなのだけれど、いろいろな意味で面白く読んだ。ミステリというものは書いているうちに上達するものなのだなあ、というのも実感できる。何が面白いって、福永が加田のために書いた序文が面白い。要するに探偵小説なるものを書いてしまった自分自身のことをさんざん揶揄したりしているわけだ。「素人探偵誕生記」などのエッセイもその背景が分かって面白い。乱歩先生や丸谷才一などの文も収録されている。
2008/5/26 シュナの旅 宮崎駿 アニメージュ文庫 Amazon.co.jp
宮崎駿描き下ろしオールカラーの絵物語。貧しい国の王子が麦の種を求めて旅をする物語。チベットの民話が元になっているとのこと。『風の谷のナウシカ』連載の開始時と同じ頃に描かれたらしい。少女姉妹とか風の谷とか緑の巨人とか原始生物の住む土地とか、いろいろ後の宮崎を連想させるモチーフがたくさん詰まっている。地味なのでアニメ化は諦めたというが、絵本としてとても優れた本だと思う。
2008/5/20 白波五人帖 山田風太郎 集英社文庫 Amazon.co.jp
ちょっと思い出して読んでみた。うーむ、やっぱりかっこよい。そうか、時期的には忍法帖の前だったのか!
2008/5/12 ゲゲゲの女房 武良布枝 実業之日本社 Amazon.co.jp
水木しげる夫人が綴った夫唱婦随の人生。腐ったバナナのエピソードは腐りかけのバナナを食べたということらしい。そんな別の視点から見た有名な逸話もたくさん含まれている。飾りのない文章に胸がほっこり温かくなっていく。勲章も受賞して、水木しげる記念館もできた現在、いちばん辛かったはずの極貧時代がいちばん懐かしく思い出されるという。
「横を見ると、いつもおまえがぼんやりと立ってたな」そういって、にやりと笑うと、右手で私の背中をバシッと叩きました。
こういう人生もよいなぁと思う。「人生は、終わりよければ、すべてよし!!」とは名言なり。そのように生きていきたい。
2008/5/11 レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説 マイケル ベイジェント他 柏書房 Amazon.co.jp
ふと『サマー・アポカリプス』では、なぜ矢吹駆がカタリ派を追っ掛けてたのかが結局分からないということに気付く。というわけで、とりあえずカタリ派についての記述があるこの本を再読。
2008/4/29 サマー・アポカリプス 笠井潔 創元推理文庫 Amazon.co.jp
「生は暗く、死もまた暗い」。今回は気分を盛り上げるために、マーラーの大地の歌(クレンペラー版)を聴きながら矢吹駆の長い台詞を読んでみた。次回は、真夏のラングドック地方で読みたいものだ。
2008/4/22 墓場鬼太郎 (1)  水木しげる 角川文庫―貸本まんが復刻版 Amazon.co.jp
貸本まんがのダークな鬼太郎が文庫で戻ってきた。アニメも終わったばかりで、照らし合わせて読むことができて非常に面白い。しかしあのアニメはよくできていた。深夜枠だとは云え、よくやったと言うべきかも。
2008/4/20 明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉 山田風太郎 ちくま文庫 Amazon.co.jp
混沌の明治初期、警察システムの一部である太政官弾正台の大巡察が不可解な事件に挑む傑作短編連作。山田風太郎で一番好きな明治もの。読む度に“なんですと?”的な機械トリック(ある意味黒死館的牽強付会)なのだが、そういうことはどうでもよい。これは観念の殺人なのだから。物凄いまでの幕引き。兎に角最後の『正義の政府はあり得るか』まで読むべし。そうすれば分かる。単なる“萌え”的要素なのかどうか、金髪碧眼の巫女を登場させたことの意味については次回の読書で考えてみようと思う。
2008/4/7 黒死館殺人事件 小栗虫太郎 ハヤカワ・ミステリ Amazon.co.jp
「読了しただけで、他人に誇れるミステリって、そうはない!!」。人生三度目の黒死館は喜国雅彦推薦帯付きポケミス。ジャケ買いということで別に読まなくても良かったのだが、何回でもこの館には引き込まれてしまうということで、気が付いたら読了。黒死館については言いたいことが山ほどあるのだが、ここでは止めておこう。
2008/4/4 きょうの猫村さん 3 ほしよりこ マガジンハウス Amazon.co.jp
文章量が多い気がしたのは気のせい?猫村さんから延々と若杉利子(仲居探偵)の身の上話を聞かされ続けるたかしぼっちゃんがいい感じ。「あら、猫だからこそわかる事ってあるのよ」って、猫村さん。一度じっくり話を聞いてほしい。もしくは猫マッサージ。
2008/4/3 世界の終わりの魔法使い 西島大介 河出書房新社 Amazon.co.jp
セカイは壊れそうで壊れない。セカイは修復可能。セカイからは抜けられそうで抜けられない。このセカイはテレパシーの届く範囲。……。「読めばゼッタイもらえる勇気!」って帯に書いてあるが、どうもそんな感じがしなかったんだなあ(これはこの物語が面白くなかったという意味ではない)。『凹村戦争』と同様、渺々とした景色の中を風が吹き抜けていくような空虚感を感じたのであった。置いて行かれた影はどうなるのか。いや、どうにもならないのは分かっているが。独特な味わいを持つ作家だ。それにしても村上春樹が若者に与えている影響というのは計り知れないんだなあ。
2008/3/28 チーム・バチスタの栄光  上下 海堂尊 宝島社文庫 Amazon.co.jp
映画が面白そうだったので、遅ればせながら読んでみた。噂どおりキャラが非常によく立っている。厚生労働省の変人キレモノ役人で表(マスコミ)には出ることができない探偵役(アクティブ)と病院にいいように使われているようで実はいい立場を手に入れているワトソン役(パッシブ)のコンビは最高。くせ者の病院長や天才外科医などのサブキャラもよい。中には大学病院という特殊な環境で起こる医療問題という社会派のテーマが含まれている(んだろうな)。単なる医療ミステリだったら読まなかったかもしれない。しかし、医療系用語をすっとばしても十分に面白い内容だった。
2008/3/26 人外鏡 化野燐 講談社NOVELS Amazon.co.jp
ひさしぶりの今作はさらに壮大なストーリーであった。一作目以来の蠱猫(小夜子)視点だけど、単純な視点ではない。
化野さんの持ち味は正統派のSFと妖怪との融合なのだと思う。件(くだん)が時間を司るのに対して、今作では人外鏡が並行世界への通路を開く。“妖怪”がSF的な文脈へとつながる概念的な呪法装置としての役割を果たしている。物語的には叙述的なトリックもあって、かなり複雑。キーワード的にもきちんと読み解くにはかなりの知識が必要だけれど、読み飛ばしても楽しめるはず。今回も南米のあの作家の話が含まれていたのが嬉しかった。
2008/3/18 零崎曲識の人間人間 西尾維新 講談社NOVELS Amazon.co.jp
「悪くない」。というか、このラストはすごく「いい!」。死が頭の上にのっかっている人間(ていうか殺人鬼なんだけど)の苛烈な生き様という点で実に山田風太郎なのだった。
残すは人識の物語のみ。早く読みたいような、終わってほしくないような。零崎一族は血縁ではなく血でつながっている家族だから、人識さえ生き残っていればもう一度殺人鬼の集団は構成されていくのだろう。伊織ちゃんもいるしね。
2008/3/11 ラカンはこう読め! スラヴォイ・ジジェク著 鈴木晶訳 紀伊國屋書店 Amazon.co.jp
「対象a」「三界」「鏡像段階」が何なのか、といったことについては一切系統だった説明はない。各節ごとに、○○を観るラカンとか、□□を読むラカンというサブタイトルが付いている。つまりラカンの目を通してラカンを理解しようというアプローチ。紋切り型の解説書ではない。それでもこの本は優れた入門書なのだと思う。「エクリ」も「セミネール」もきちんと読んでいないが、そういう気がする。結局ラカンについては未だにさっぱり分かっていないのだが、きっと一生分からないか誤解し続けていくような気もする。それでもこの本を読みながら気を失うように眠った数日間は結構幸せだった。
2008/2/27 凹村戦争(おうそんせんそう) 西島大介 早川書房 Jコレクション Amazon.co.jp
かわいらしくシンプルな絵がかえって記号っぽく、世界から隔絶されたこの村の独特な雰囲気を出している。殺伐とした田舎の風景。秋の風がびゅうびゅう吹き抜けるようなイメージ。携帯の電波も届かないような山間の村で情報もないままに育つということは、外から見ると恐怖でしかないが、住んでいる人たちにしてみれば別に抜け出す必要はないし、外を知らなければ知りたいとも思わないわけで、たとえ外が滅んでいたとしても別に関係ないのかも。セカイとは見える範囲だったり、携帯の電波が届く範囲だったりするんだね。
2008/2/24 篦棒な人々−戦後サブカルチャー偉人伝 竹熊健太郎 河出文庫 Amazon.co.jp
すごくよいインタビューだと思う。心底誠実に聞けば必ずよい答えが返ってくるの見本。川内康範氏に話を聞くのは緊張しただろうな。最後のダダカンに至っては、インタビューに至るまでのドキュメンタリーと言ってよい。何しろ生死さえ確かではないのだから。最後には映像が頭に浮かび感動さえ覚える。こういう篦棒な怪人物たちは今の時代からはもう生まれてこないのだろう。そういう意味で歴史的な資料としても価値がある一冊。
2008/2/19 パンドラ・ケース―よみがえる殺人 高橋克彦 文春文庫 Amazon.co.jp
積ん読からパンドラというキーワードつながりで選択。とんでも系以外のミステリ系では浮世絵シリーズしか読んだことがなかったのだけれど、なかなか面白い。途中で探偵役が同じ人物だということに気付く。疑わしき人物達があーでもないこーでもないと喋りながら謎を解いていくという形式は結構好き。なにしろ古い物語なので(バブルの時期に40歳前の大人が学生時代を振り返るという話)、三億円事件とか三島事件とかが出てくる。ラスコーリニコフというキーワードが出てきた瞬間に笠井潔の解説を予測するというある意味面白い読み方ができた。埴谷雄高の参照には気がつかなかった。ところで、「渋澤龍彦のような天才が死んだって週刊誌は特集一つ組まん」(頁100)という台詞に既視感。最近同じ文章をどこかで読んだ気がするのだけれど思い出せない…。
2008/2/12 パンドラVol.1 SIDEーA 講談社BOX Amazon.co.jp
なるほど、箱つながりでパンドラね…。あまり深く考えないで手にとってしまった。西尾維新(傷物語)はよかったけど、あとはなんだかつらかった。コンセプトがいまひとつつかめずにいるのは体調が悪いせいということにしておく。
2008/2/10 オヨヨ島の冒険 小林信彦 角川文庫 Amazon.co.jp
オヨヨ大統領シリーズ第一作目。懐かしい。あの頃世界征服は物語の原点だった(あんたはどっち側に立ってるのとか言わないでね)。われらの時代の男の子たちは将来の夢に「世界征服」を挙げたものだった。女子は「ばっかみたーい」とか言いながらも、ちょっと羨ましがっていたような気もする。今時の子供たちはどうなのだろうね?
それにしてもこのシリーズ、絶版で揃えるのが結構大変なことに気付いた。
2008/2/9 わがふるさとは黄泉の国 半村良 河出文庫 Amazon.co.jp
多元宇宙や宇宙人などのSF系や伝奇系など、短編の詰め合わせ。初出はおおよそ1970年代前半のもの。ユーモラスなものもあるし、短編ならではの怖さを持ったものも含まれている。特に表題作の怖さは今時のホラーとは一線を画す。神話の中の“あの世”が、黄泉比良坂や根堅須(根之堅州国)といった実際の名前を伴った土地として実在していて、その中にうっかり入り込んでしまう恐怖。そこで見たものはあまりにも意味不明で夢の中のような印象。ヨモツシコメは怖すぎでしょう。
2008/2/3 存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて 東浩紀 新潮社 Amazon.co.jp
なんというか、ようやく読んだという。もうこの本が出てから10年近く経つのだった。私は東浩紀という作者が好きだったりするのだが、なぜ好きかというと、デリダがどうのとかいう前に、その文体が持つ真剣さというか(悲壮さというと言い過ぎかも)文学的なニュアンスが好きなのかもしれない。泣きたくなるほどの真剣さを抱えて書かれたものというか。もちろんそれは私が一方的に受け取った郵便なのかもしれないけれど。きっといつか再読。
2008/2/2 ワインと書物でフランスめぐり 福田育弘 国書刊行会 Amazon.co.jp
蘊蓄ではないワインの書を読んでみたかった。この本は、フランスの土地ごとにワインと文学を対比させるという手法なのでちょうどよかったかも。たとえばブルゴーニュはコレット、ロワールはラブレーといったぐあい。想像していたほど文学寄りではなかったのが意外。それでも随分と楽しく読んだ。作家性とその土地とワインの在り方を結びつけるあたりやや強引なところもあるように感じられたのだが、これはもう実際にたずねて土地の匂いを嗅いでその土地で飲んでそれに合った土地の料理を食べてみるまで分からないのかもしれない。
もうひとつ。ワインを語る時に詩的にならざるを得ない秘密についてもちょっとだけ理解した気がした。
2008/1/23 雨の恐竜 山田正紀 理論社 ミステリーYA(ヤー)! Amazon.co.jp
ミステリというハコでしか描けない真実や物語がある……というのは、優れたミステリを読み終えた時に感じる感想なのだが、この本も例外ではない。このハコには優れた物語が入っている。今回はファンタジーとミステリの融合。まぁ何にしても、山田正紀を読む時はいつもハコがミステリかSFかなどということは気にしたりはしないのだが。
今回は「君音(クイーン)の推理には心がない」(頁324)辺りがツボであった。アンチミステリ的遊び心というかなんというか。名探偵諸氏への強烈なメッセージだ(笑)。後書きの「どうやら、私のなかには十四歳の少女が存在するらしいのです」にも笑った。たしかに桜庭一樹とか恩田陸が書いたと言われてもあまり違和感のないような少女たちの描写であった。
講談社のミステリーランドほど派手に凝ったものではないが、細かいところに気を遣った楽しい装幀(軽フランス装)だと思う。
2008/1/18 蟲師 (1) 漆原友紀 アフタヌーンKC Amazon.co.jp
テレビアニメ→映画→原作と、また変則的な読み方をしてしまった。まあ、映画は別物という気がするけど。こうして原作を読んでみると、あらためてあのアニメが非常に優れていたのだということに思い至る。この短編を内容を変えず世界を損なわずにあそこまで表現したということにまずは拍手。
2008/1/14 山師カリオストロの大冒険 種村季弘 岩波現代文庫 Amazon.co.jp
小説ではなく評伝。詐欺師と奇蹟を行う大コフタ──聖と俗を併せ持つ怪人物カリオストロのその両面性を善悪のどちらかに寄ることなく描き出している。革命前の18世紀というのは神秘主義や啓蒙主義思想が入り乱れていたのだろう。それこそ錬金術師の坩堝のように。その都市を錬金術の“石”のようにカリオストロが旅人として通過することが、高次の状態に移行することにつながる。時にそれが革命だったりする。彼が本当に何らかの使命を帯びていたのかどうかはわからないが、悪漢小説(ピカレスクロマン)の裏返しというその考察は見事。ゲーテと大デュマを読みたくなった。
2008/1/10 零崎軋識の人間ノック 西尾維新 講談社NOVELS Amazon.co.jp
軋識って今ひとつ地味な感じがするのはなぜだろう。得物は釘バットなんて物騒なものなんだけど。双識と人識という圧倒的な存在があるから?それともあえて?この本は人間試験から5年程前の昔話。登場人物は戯れ言シリーズでほぼお馴染み。仕掛け人も目的も不明の戦いの話で、全体的にちょっとまとまりがないが、人識と匂宮出夢との関係、人識と玉藻ちゃんとの関係が何ともよい感じ。暴君の話は要らない。過去の話としては、一姫のエピソード希望。
2008/1/6 零崎双識の人間試験 西尾維新 講談社NOVELS Amazon.co.jp
「さあ、零崎を始めよう」って格好良すぎるよ零崎一賊。せっかくあたためておいたシリーズなのだが、『メフィスト』掲載の人間人間をうっかり読んでしまったので、この際全部読んでしまおうかと。本当は「人殺しは生き様だ」なんて書くとよい子が真似しそうで怖いところなのだが、このシリーズは山田風太郎の系譜につらなる戦いと滅びの美学を描いているのだというところを間違ってはいけない。伊織ちゃんが零崎化していくところが、泣きそうに格好いい。